放射線廃棄物とキシリトール?

2011.06.09

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松戸市小金原しんぽ歯科医院 新保です。

昨日火曜日の夜同級生の勉強会がありました。
海谷君の上顎7本のインプラント埋入症例、見事でした。
とても良い刺激になります。
翌日は休診日を利用しオペの見学をさせてもらいました。
難しい治療でしたが、海谷君は難無くこなしていました。
彼と僕とは歯科界のわらしべ長者(笑)と言っているのですが、本当に次から次へ良き歯科医療者と出会い医良き縁をいただいています。
彼も確実にレベルを上げています。

時間があったので、松涛のミニシアターに足を運び「100,000年後の安全」という映画を観ました。
オンカロという言葉をご存知ですか?
原発で使用したウラン燃料を捨てるゴミ捨て場の話です。
世界で最初にフィンランドが本格的な建設を始めました。フィンランド語でオンカロとは「隠れた場所」という意味です。
なぜ、「隠れた場所」なのでしょう。
非常に難しい問題なので、
(社)スウェーデン社会研究所 須永昌博氏の文献を引用します。

なぜ、原発大国御三家(アメリカ、フランス、日本)ではなく北欧の小国フィンランドなのでしょう。
マイケル・マドセン監督はまるで、静かな風景を撮る様に淡々とカメラを回しながら、人類についての大きなテーマを投げかけてきます。
10万年後の人類に私たちはどうしたら意思を伝達できるだろうか。そんな想像をもたらす世界でもあります。
この映画が提示するテーマを補足してみましょう。
1.放射性廃棄物とは何か。なぜ、処理が必要なのか。オンカロとは。
2.なぜ、フィンランドなのか。
3.原子力発電に賛成、反対の人々をどう調整するのか。
4.持続可能社会とは何か。将来の人類とコミュニケーションはとれるのか。
5.日本ではどうなのか。

1.放射性廃棄物とは何か。なぜ、処理が必要なのか。オンカロとは。

放射性廃棄物とは放射性物質を含む廃棄物の総称のことで、原子力発電所や各関連物質を使用する施設から排出されます。
寿命の尽きた原子炉も廃棄物になります。
放射能物質が生物にとって無害になるには気の遠くなる年月が必要で、この映画では10万年としています。放射能は無味無臭の「死の光線」で人間の五感では感知できません。しかし放射能を浴びると2週間で発熱、次第に体の細胞が破壊され死に至ります。
広島、長崎の経験を持つ日本人にとってはわかりやすい恐怖です。
フィンランドではこの放射性廃棄物を貯蔵しておく地下施設の「オンカロ」建設を始めました。
ヘルシンキから西に240kmの島、オルキルトという場所にあります。
岩盤を地下深く500m掘って、そこに想像を絶する広大な貯蔵施設を作ります。
オンカロが完成するのは100年後の22世紀になります。放射性廃棄物を処分するには、太陽に飛ばすか、海底に埋めるか、結局人類にとってもっとも安全な方法は地下に埋めるしかないと分かりました。
完成したオンカロは永遠に封じられ、誰も入ることが出来ません。生命に危害を与える高レベルの放射能から人間を遮蔽するためです。
永遠に隠れた場所になります。今だからこそ見ることが出来る、見せておかなければならないと、映像は訴えています。
でもこの施設は10万年の年月を耐えなければなりません。放射性廃棄物が生命にとって無害になるには10万年(放射法の半減期)かかります。
耐用年数が10万年という機械や設備を人類は作ったことがあったでしょうか。

2.何故、フィンランドなのか
フィンランドで私たちがまず、思い浮かべるのはシベリウス、サンタクロース、ムーミン、サウナ、ログハウス、ノキア、キシリトールくらいでしょうか。
実際にはほとんどの日本人はフィンランドを知りません。
しかしながら、国際機関が発表する国別ランキングでGDP、幸福度、男女平等などいろいろな指標から見て常にランキングの上位を占めています。
人に優しく、住みやすい国というのが共通しています。最近はその進んだ教育制度が世界中の関心を集めています。
なぜ、フィンランドが世界に先駆けてオンカロを建設するのでしょう。
そこにはフィンランド人の物事に取り組む基本的な姿勢が見られます。
将来起こりそうないろいろな問題を予見して、事前に処理する、その方が起こってしまった後で対策を講じるより遙かにコストが安くすむという「予防すること」「未病を治す」ことです。
世界に確たる教育制度も福祉制度もこの発想から来ています。
放射性残留物が起こす問題を先取りして万全の対策を講じることも他なりません。
もうひとつ考えなければならないのはフィンランドの地理上、地政上の理由です。
フィンランドは国土を占領されたり、奪われたりと旧ソ連に随分苛められて来ました。
ロシアの恐怖がトラウマとして潜在的にあります。いまでも電力や天然ガスをロシアに依存しています。ロシアがパイプラインの栓を締めたら、フィンランド人は凍死してしまいます。ロシアのクビキから開放されて、エネルギー源を確保することはフィンランド人にとっては最大の安全保障なのです。
隣国のスウェーデン同様に1986年のチェルノブイリの事故により、一時期フィンランドでも原子力に反対する機運が盛り上がりました。しかしながら、国の安全保障という観点から現在は原子力発電に積極的で今5基目を建設中です。電力の3分の1は原子力になります。

3.原子力発電に賛成、反対の人々をどう調整するのか

原発の問題には常に推進か反対かの話題がつきまといます。
この映画はその点を明確にしています。
放射性廃棄物を原子力発電の問題とリンクすれば、既に発生している廃棄物の問題から目をそらすことになる。賛成、反対を問わずに今の問題を処理しない限り、将来の世代に害をあたえることになると警告しています。
さらに大切なのは、情報公開です。世界中から人道国家No.1と認められているスウェーデンと同じくフィンランド国民が原子力発電を容認している大きな要因は、徹底した情報公開にあります。情報公開が人々の不安を除く不可欠のシステムで、パブリックアクセプタンスのもとになります。

4.持続可能社会とはなにか

人類の祖先ネアンデルタール人の時代からこれまで1万年しかたっていません。
その昔、人間はピラミッドや万里の長城や東大寺大仏殿を作りました。歴史的な大建造物です。しかし高々5000年も経っていません。
今、地球は気候変動の問題を抱えて、持続可能社会の構築がスローガンになっています。持続とはいつまでのことを指すのでしょうか。永久にと言います。でもこの映画にも出てきますが、地球は6万年ごとに大氷河期に襲われています。そのときにすべて人類の記録が失われてしまいます。
その後の断絶した世代と文字とか記録とかで私達は交流ができるのだろうか。出来ないのではないかと監督は疑問を投げかけています。
フィンランド当局がオンカロに心血を注いでいるのは、ここをいかにして人間社会、人間の好奇心から隔絶するかです。
これまで人類の遺産は構成の人の脚光を浴びることで価値が生まれました。オンカロは全く逆です。
どうしたら人間がそれを忘れてくれるか、無視してくれるだろうか。最良のあり方は永遠に忘れ去られることなのです。存在の否定がすべての価値であるとオンカロは訴えます。そうしなければ又人類の悲劇が始まると予言しているようです。
ピラミッドを設営したファオラは栄光を夢見ました。外敵を防ぐために万里の長城を建造した中国の皇帝は生命の永遠を願いました。しかしオンカロには降り注ぐ太陽も無ければ栄華もありません。
聞こえる音も無く、流れる水のせせらぎも無い、針山に覆われて静寂な永遠の死の場所です。

5.日本ではどうなのか

今世界には30ヶ所、435基の原子炉が稼動しています。日本は54基でアメリカ、フランスに次いで世界第3位です。
そこから出る放射性のゴミを何とかしなければいけないことは、皆何となく分かっています。
でも、処理場をどうするかとなるとどの国もフィンランドほど熱心ではありません。
日本で原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物の最終処分を行う事業母体は原子力発電環境整備気候(NUMO)です。
処分場の選定は地方自治体に最大90億円の交付金を提示して公募する方法をとっています。しかしながら、2007年に高知県の東洋町が応募したにも関わらず、町長や住民のゴタゴタで白紙撤回になりました。原子力問題の核となる「徹底した情報公開」が未熟なためと思われます。
情報公開をどう進めるかが今後の日本の課題でしょう。
もう一つ放射性廃棄物、使用済み核燃料の処理には再利用する方法があり、日本原燃が青森県六ヶ所村に核燃料サイクル工場を試験運転中で、最終的にウランとプルトニウムを取り出して再利用する計画です。
フィンランドのオンカルの考えとは全く異なります。フィンランド(スウェーデンも同じ)が地下貯蔵のみで再利用しないのはプルトニウムが核爆弾の原料になるからです。
国際的なテロ組織が核爆弾を手にする脅威を避けるためです。同じ理由から原子力発電施設の輸出もしません。
人類を核の恐怖から守るというフィンランドの毅然としたグローバルな姿勢には、いまさらながら敬意を払わざるを得ません。

以上が概要ですが、私の身を置く歯科の世界においても全く日本とフィンランドは対象的です。

数十年前、どちらの国も虫歯の大洪水でした。ところが将来を予測し、口腔衛生教育に力を入れる事で全身疾患を未然に防ぎ、結果的には国家の医療費を低く抑える構想をたてフィンランドは実行しました。キシリトールはこの様な背景で誕生しました。
もちろん虫歯が激減した事は言うまでもありません。
日本はどうでしょう?
全く逆の政策でここまで来ました。皆さんもお分かりと思います。
やはり今回の原発の問題においても根底は同じとおもいます。